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「坂の上の雲」から学ぶリーダーシップ

NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX

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歴史小説を自己学習の教材に

プロジェクトマネージャ向けの研修で人気のあるもののひとつに、事例から学ぶケーススタディ研修があります。経験できる現場の数は限りがあるので、研修を通してより現場に近い経験を学ぶことができます。しかし、プロジェクト事例を入手することは、企業が積極的に力を入れていない限り難しいのが現状です。守秘義務の壁や、忙しいプロジェクトマネージャから情報を入手するのが困難なためです。小さな企業の場合、身近に経験あるプロジェクトマネージャがいないことも多いです。もっと気軽に楽しく経験を学べる方法として、歴史小説を自己学習の教材にすることができます。
歴史上の人物から、プロジェクトマネージャやリーダーとしての資質を考察する試みは少なくありません。特に、日本の戦国時代の織田信長豊臣秀吉徳川家康や中国三国時代曹操劉備孫権は、ドラマティックな時代背景と三者の比較の面白さからか、書籍や講演でも取り上げられることが多々あります。実際、彼らから学べることは多くあり、何より歴史をつくってきた人たちの生きざまに触れることは非常に楽しいことです。

坂の上の雲」から学ぶリーダーシップ

本記事では、『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)をとりあげます。松山出身の秋山好古秋山真之兄弟と正岡子規の3人の生い立ちからはじまり、日露戦争が丁寧に描かれています。クライマックスは、「智謀湧くが如し」と称えられた天才秋山真之を参謀に据えた東郷平八郎率いる連合艦隊と、大艦隊でありながら喜望峰経由でインド洋横断という「奇跡の航海」をなしとげたロジェストウェンスキー率いるバルチック艦隊が海戦を繰り広げた日本海海戦です。東郷は、日本の損害はほとんどなく、ロシアのほぼすべての艦隊が撃沈、自沈、捕捉という世界海戦史上最も完全に近い勝利を勝ちとりました。
ここで東郷の人間力を垣間見られる言動をいくつか見てみましょう。

精神的支柱となる

バルチック艦隊津軽海峡宗谷海峡対馬海峡のどこを通ってくるか分からず、待ちかまえる日本海軍首脳陣は不安にさいなまれていました。おそらく東郷自身も大いに悩んでいたものと推測できます。しかし、その姿を部下には一切見せずに態度がぶれずにいたことで、頼もしい上司に映ったに違いありません。このような行為がその後の海戦での部下統率力を高めていったのでしょう。

日本海軍の不安は頂点に達しようとしていた。
東郷はどうやら不動のままでいたようであった。この連合艦隊司令官庁は、かれがすわりこんでいる鎮海湾から動く気持ちはすこしももたず、そのことがかれを世界海軍史上の名将にした。
しかし東郷の頭脳を担当していた中佐秋山真之は動揺した。
(中略)
この時期の真之は、東郷にくらべればよほど小粒な存在であった。

経験に裏付けられた判断力・実行力

経験は何よりも重要です。バルチック艦隊に壊滅的打撃を与えた丁字戦法、いわゆるトウゴウ・ターンの実行に、東郷の経験に裏付けられた判断力、実行力がよく表れています。

稀代の名参謀といわれた真之でも、もし彼が司令長官であったならばこれをやったかどうかは疑わしい。かれはおそらくこの大冒険を避けて、かれが用意している「ウラジオまでの七段備え」という方法で時間をかけて敵の勢力を漸滅させてゆく方法をとったかもしれない。
が、東郷はそれをやった。
かれは風むきが敵の射撃に不利であること、敵は元来遠距離射撃に長じていないこと、波が高いためただでさえ遠距離射撃に長じていない敵にとって高い命中率を得ることは困難であること、などをとっさに判断したに相違なかった。
「海戦に勝つ方法は」
と、のちに東郷は語っている。
「適切な時機をつかんで猛撃を加えることである。その時機を判断する能力は経験によって得られるもので、書物からは学ぶことができない」
用兵者としての東郷はたしかにこのとき時機を感じた。そのかんは、かれの豊富な経験から弾き出された。

丁字戦法を考案したのは秋山真之と言われていますが、考案するのと実行し成功するのは別の次元の行為です。参謀を信頼し、決断し、実行したことが東郷という人間のすごさです。この人間力を養うのに経験が不可欠です。
私たちは、現場でさまざまな経験を積むことを最優先にしなければなりません。その上で、不足する経験を書籍や研修で補うことが重要です。

現場の先頭に立つ

東郷はどんな状況でも先頭に立ち続けました。先頭に立つ意気込みをもって初めて、経験が身になるのです。単に多くの現場に「いる」だけでなく、当事者意識をもって取り組むことが、自己の成長につながります。

艦橋にある東郷は、一文字吉房の長剣のコジリを床にコトリと落し、両足をわずかにひらいたまま動かなかった。足もとの床は飛沫でびしょ濡れであった。ちなみに東郷は戦闘がおわってからようやく艦橋をおりたのだが、東郷が去ったあと、その靴のあとだけが乾いていたという目撃談がある。

 このような行為は大いに士気をあげたでしょう。無口である東郷にとって、自身の信念を周囲に伝えるコミュニケーションとしても役に立ちました。よい信念をもって物事に取り組むことは、自己の成長という点でも、周囲への影響という点でも望ましいことです。東郷はこれを実践していました。

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歴史から学ぶ意義

歴史小説を読むことで、登場人物の行動を疑似体験することができます。心理学用語でいうところの"モデリング"です。プロジェクト事例から学ぶケーススタディ研修もこれに近い効果を期待したものです。この場合でも、単に「読む」(または、研修会場に「いる」)のではなく、真剣になりきったつもりで、すなわち当事者意識をもって学ぶことが重要になります。
モデリングを効果的に活用している例として、映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(スティーヴン・スピルバーグ監督)のフランク・W・アバグネイルJr.が参考になります。アバグネイルは実在の人物で、パイロットや医師、弁護士(弁護士の資格は実際に取得した)に偽装したのですが、その際に映画を見てその職業を徹底的に勉強しています。モデリングを使って、これまで全く持っていなかった職業経験を補っていたのです。

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