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参院選2019で大勝した自民党の憲法改正草案を読んでみた

参院選自民党は大勝し、安倍政権への信任は得られたと考えられるものの、日本維新の会などを含めた「改憲勢力」は改憲発議に必要な「3分の2」を割り込んでしまいました。
憲法改正はどう進むのか微妙な状況です。

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constitution.jimin.jp

この機会に自民党憲法改正草案をじっくり読んでみました。
全体としては国家運営に関して現行の運用にあうようになっていたり、わかりやすい言い回しになっていたりします。
9条を始めとして、気になるところはちょいちょいあります。

憲法は誰のもの?――自民党改憲案の検証 (岩波ブックレット)

憲法は誰のもの?――自民党改憲案の検証 (岩波ブックレット)

前文

大きく変わっています。今のは翻訳調で読みにくいのを直したかったそうでそれはいいのですが、大きくは平和主義の表現方法と基本的人権の尊重について加えたことでしょう。

平和主義

我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
自民党憲法改正草案)

シンプルになっています。現行憲法と違って「国際社会において重要な地位を占め」たと断言したのがいいなと思いました。
「諸外国との友好関係を増進」とは集団的自衛権を念頭においてのことなのでしょうけど、この文も今の時代背景としては自然なことだと思います。

ちなみに現行憲法はこちら。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
日本国憲法

少々ポエム的ですが、世界平和を追求するのだという強い意志が感じられます。

基本的人権の尊重

日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
自民党憲法改正草案)

憲法の三大原則の一つですので前文で書いておくのは同意できます。

天皇

日本国の元首

第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく
自民党憲法改正草案)

元首とはっきりいい切りました。確かに他国から見たら元首は天皇のように見えるかもしれませんし、実際そう感じている国民は多いのでしょうが、憲法で明言するのはどうなのでしょう。
天皇の立場があやふやなのを明確にしたいという意図はわかりますし、憲法には天皇の行う国事は制限しています。でも、例えば「元首」として他国と何か約束したらどうするのでしょうね。

国歌、国旗

第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
自民党憲法改正草案)

国歌と国旗を明確にしました。ここは突っ込む人も多いでしょうが、私はこれでいいと思います。まず明確にするのが大事であることと、国外含めて多くの人は日章旗が国旗、君が代が国歌だと思っています。

第9条

戦争放棄 → 安全保証

さりげなく2章のタイトルが「戦争の放棄」から「安全保障」に変わっています。第九条で「国権の発動としての戦争を放棄し」というのを残したので、そのままでいい気もするのですが。

国防軍

第二章 安全保障
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
国防軍
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
自民党憲法改正草案)

9条は長いです。自民党の苦労、思い入れが感じられます。
国防軍」という言葉を使いました。他国の戦争の支援に行けるような表現になっています。現代の世界情勢を鑑みるとこのような表現がいいかなと個人的には思いますが、この条項はコンセンサスを取るのが難しいですね。

ちなみに現憲法は非常に短い。

第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
日本国憲法

家族、婚姻等

家族

第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
自民党憲法改正草案)

これは新設です。何でこれを入れたのでしょうか。
言いたいことは分かるのですが、立憲主義において国民を縛るようなことは憲法で書くべきでないし、余計なお世話という感じです。

婚姻

2婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
自民党憲法改正草案)

ここは基本的には変わっていません。「両性」という言葉を残したことは性的マイノリティのことをあえて無視したのかどうか。

地方自治

ここは大きく追加されています。今までがよくわからなすぎました。

地方自治

第九十二条 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
地方自治体の種類、国及び地方自治体の協力等)
第九十三条 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
3 国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。
自民党憲法改正草案)

地方自治体という存在があることを明記しました。県とか市は何なのかよく分かりませんでしたからマシになったと思います。

現行憲法は以下の通り。

第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
日本国憲法

そもそも「地方自治の本旨」なんてどこにもないし。いい加減すぎる。

地方自治体の権能

第九十五条 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
自民党憲法改正草案)

現行とほとんど変わらないです。「法律の範囲内」と制限されているので、立法権は与えないということです。中央集権を維持しようという意図が見えます。

財源

第九十六条 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする。
2 国は、地方自治体において、前項の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない。
3 第八十三条第二項の規定は、地方自治について準用する。
自民党憲法改正草案)

ここは大きく変わりました。新設です。
自主財源に基づいて運営できるようになりました。ただ第95条で法律で決められてしまったら結局は何もできないので、中央のさじ加減に振り回されるのはあまり変わりません。

表現の自由

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
自民党憲法改正草案)

2項目目が追加されました。
何が「公益や公の秩序を害する」というのか明確でないので、表現の自由を制限しようとしているようにも見えます。

緊急事態

第9章に丸々追加されました。緊急事態の対応で右往左往しているのが見て取れるので、明確にしておくのはいいことだと思います。
どういう場合に「緊急事態の宣言」をするのは法律で定めるのでしょうが、ここはしっかり見張る必要があります。

第九章 緊急事態
(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。4緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
自民党憲法改正草案)

憲法の改正

第百条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。
自民党憲法改正草案)

衆参両院における憲法改正の提案要件を「3 分の 2 以上」から「過半数」に緩和しました。今のは明らかに改正がしにくいので、いいことだと思います。どうせ国民投票過半数の賛成が必要なのですし。

憲法尊重擁護義務

憲法尊重擁護義務)
第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
自民党憲法改正草案)

1項目目が追加されました。権力者だけでなく、国民も憲法を守るようにとのことです。
要らないと気がします。権力者が憲法を遵守して、適切な立法と行政を行えば、それで十分だと思います。国民は法律を遵守しないといけないのですから。追加された意図は何でしょうね。

まとめ

概ね賛成ですが、地方自治についてはもっと分権が進められるようにして欲しいかなと思いました。
家族とか表現の自由とか憲法尊重とか国民の縛りを少し増やしているのは気になります。
第9条は、これの修正がある限り憲法改正は遠そうです。対案はないですが。。。

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